コロナ禍真っ只中にシンガポールから日本に帰国した2020年夏、精神的に絶不調だった僕はあるクリニックの門を叩く。そこで「主たる障害:双極性障害II型(躁鬱病)、従たる障害:発達障害(ASD、アスペルガー)、解離性同一性障害」と診断され、主治医から「解離性同一性障害は一番最後に手をつけます。精神療法をしばらく続ける必要があるでしょう」と宣告される。それから半年弱、症状も落ち着き知識も増えてきた頃を見計らって、精神療法のカウンセリングがスタートする。
第1回 解離とは何か
□はカウンセラー、■は僕の発言
導入
□さて詳しくちょっと解離の話をして、そこからスタートしましょう。
えっとまず、何人くらいいます?自分の中に。
■妻が言うには10人以上です。
□ええーっそうですか。
■で僕の中では、気づかないうちに入れ替わっているので分からないのですが、確かに多いなと思うのです。状況とストレスの量や体調によって自分の感覚が違ってくるんで。後やっぱり記憶もぼんやりとしか残らないところがあるんで。特に強いストレスがかかった時に、あんまり覚えていないようなことが起きるんで。その時に非常に気分が変わったことは覚えているんですけど、何をしたか具体的なことは覚えていない。一時的な解離かと考えていますが。
□あのー、名前がついていますか?
■名前は、妻はつけました、怖がりの自分や子供の名前とか。で自分ではあまりリアルじゃないのでつけてはいないです。よく本とかで読むような、名前をつけて分類できるような感じではなくて、なんとなくどれも自分みたいな感じで。
□今私の目の前にいるあなた以外に、どんなことをやっているかと言うのをちょっと教えていただけますか?なんだか知らないうちにやっていることとか、半分知っているかも知れないけれども。今のあなた以外がやっていることって、どんなことをやっています?
■一番大きかったのは、コロナでシンガポールから帰ってきた時に死にたくなっちゃったことがあって。その時の自分って今ここにいる僕とは繋がっていない感じなんで。今思い出すと、子供の頃に父親に折檻された時の自分に近いような感じ。全て自分が悪いと。そう言う自分が出たことがあって、それまでそれが出なかったのでとてもびっくりしたのが今年の6月ですね。そもそもそれがきっかけでこちらに繋がったんですけど。
あとは、言うことがコロコロ変わると家族が言うように、一つのことに関して価値観とか言っていることが本当に違うんで。自分の中ではその時その時できちんと話している気がするんですが、後からまとめて聞くと「これは全然違うことを言っているよね」と言うのが改めて後から分かる感じなので。で今ここで先生の前にいる僕と言うのは、結構装っている感じなので、学校の先生とか医者の先生の前だと、子供の頃からそうですけど、ちゃんとしなさいって言うところがあるんで。それと、はっちゃけているというか大騒ぎしている時の自分とはまた違うんで。だからそこが自分の中でシームレスに入れ替わってしまうので、状況とストレスの量に応じて変わっちゃう感じですね。子供の頃からこの傾向が強いですね。
□いつ頃から解離が始まったですか?
■いやもう小さい頃からだと思いますけど、結構小さい頃からショックなことが多かったんで。で僕の目の前で両親の喧嘩とは日常茶飯事でしたし。友達関係よりは家庭の方が多いですね。僕個人も父親から暴力を受けることが多かったですし、でその時って頭にくるし反抗できないんで自分の中に篭っちゃうことが色々あるんで、でそれが何年も経ってから噴き出してって言うのが、もう自分の行動の中で行動化してるところがあるんで。
で本とか読むと、自分がボーダーラインじゃないのかと思うようなことが多くて。行動化してしまうので、それがタイムスリップによって昔のことが今のことのように思い出されて、それで今の現実で混乱するのかと。
解離のメカニズム
□まず解離ってものはどう言うものかと言うことをちょっと説明しておいた方が多分あなたもお話しやすいかなと思いますので、ちょっと概説的にお話しておきますね。まずなぜ解離というものが起きるのかということですけれども。こういうことなんです。
子供時代に、出してはいけない自分の特性を、引き出しの中にしまい込んでしまう。箪笥の中とか、比喩でね。で、適応的な自分だけ出すわけです。適応的な自分って何かって言うと、「良い子」。でそうしないと、父親が暴力を振るうとか、母親に暴力を振われる場合もありますけど、例えば甘えると叱られるとか、そうすると子供の自分の部分を切り離そうとする。それから怒りが出ると、子供だから怒るよね。そう言う怒りの自分は不都合だから削るわけです。でも削っても自分だから残るわけですよ。で例えば引き出しの中にしまっておく。ところが引き出しの中に入れていたはずの自分が、何かの拍子にスポンと出てくるわけですよ。で入れ替わるわけです。
で解離が起こるわけなんですけど、基本形はね3つのパターンなんです。いくらたくさん、20あろうと30あろうと基本形は3つなんです。これは知っておいた方がいいと思いますね。一つは適応的な自分、だからまあ仕事している時の自分も多分そうだろうと思うし、僕の前にいるあなたもそうですね。これをAと名付けましょう。適応的な自分はいい子ちゃんです。でよく誤解するのは、「解離の治療というのはAになることだ」と、「他のBやCの人格が要らないんだ」という風に考えると治らないです。実は。で、Bの人格ってどんな側面かというと、まあ簡単に言えば子供の自分なんです。それにはさまざまな特性がありますから、それはバリエーションとして理解すればいいんで、僕はBと名付けていますけど。BabyのBですね。AはAdultのAと考えればいいね。
で子供の自分というのは、甘えてみたり怖がってみたりわがまま言いたかったり、そう言うのが子供の特性じゃないですか。有頂天になるのもそうだし。それをBと呼ぼうと。人格のバリエーションで。でCというバリエーションは、そういうあなたが虐待を受けていたときに怒りを出せないとしますね。怒りを出せないけど、本当は不信感や攻撃性というのはあるはずなんですよ。恨みを感じるとかね。そういう一見ネガティブに見られる特性をCと呼べば、CombatのCと言ってもいいんですけど。戦いのね。
まあABCの特性を、いずれも一つでも欠けると人間はバランスを崩すんですよ。
■そういうものですか。
□喜怒哀楽ってなんでしょうか?怒も入ってるでしょ。悲しみも入ってるんだし、子供の楽しみも入ってる。だからそういう意味で喜怒哀楽という4つの感情は人間の基本感情ですし、それは人格にも当てはまるわけですよ。まあ人格は4つじゃなくて大体大きく分布を分けると3つの自分なんですが。
■わかりました。
□でそういう3つの自分が実は皆必要だということがあなたが感覚的に分かって、そしてBの人格もCの人格もそれに対して「いいよ」というような感じになってくれば、統合が始まります。ちゃんと統合が始まります。
で大事なことはね、ABC3人ともあんまり仲良くないんですよ。ですから、例えばAの自分のことに対してCの自分は「あいつは格好ばかりつけやがっていい子ばっかり」そういうのもあるんですよ。それからBの自分に対しては「うざったい」とか。Bの自分はCに対して「怖い」とか、「できたらこういう人とはそばにいたくない」とか。でAの自分に対してはBの自分は「お仕事ばかりしてつまんないよ」とか「もっと遊んでよ」「僕の顔を見てくれないんじゃないか」と思う、かも知れない。
でそういうものが、実はCというものが一番ある意味で受け入れにくい自分なのですけども、Cの自分は実はあなたの強さでもあるんです。つまりあなたが自殺を冒してもおかしくない状況の中でも、自殺しないでまあなんとかやってきたのはCの功績なんです。ですからCを除外しようとすると治らないです。Cもあっていいね、味方だねということになってくるとあなたの中で変化が出てくる。
■例えばCは良くないとか見たくないという感情もあるんですけど、自分の醜いところとか、そこを認めてあげて、力として…
□そうそう。僕たちは禅の修行僧みたいにさ、人格者であることを治療・健康の目標としているわけじゃないんで、人間の持っている様々な特性をそれ自身を内包しているのが人間存在だとむしろ考えてほしいんだ。一つの人格の中に、色々なものが実は健康といわれている人の中にもあるわけじゃない。攻撃的だったり、優しかったり、親切だったり、子供みたいに遊びたい自分もあったり、それから多少エッチだったり、いろんなものがね。それがまあ総体としての自分なわけ。本当は一つ一つが正しい自分じゃないわけだよね。そういう負の面もたくさんもっているよというのが人間存在で、もともとそういう意味ではモザイクみたいなもんなんです人間というのは。それも受け入れていいんだということから始めるのがいいと思う。
それにはね若干のやっぱり方法があるんで。一つはAの自分でBやCの気持ちが実はあんまり良く分かっていなかったということがある。なぜかというと解離というのは例えてみるとね、アパートか団地に住んでいる住民同士に似てるんですよ。同じコンパートメントに入っているはずなんだけども、相手の生活がどうなっているかってほとんど知らない。でCの自分になってるときにはAのことも良く見えてないし、Bの自分がいることもあんまり覚えてないし逆も真なんです。その意味でお互いに存在がよく分からないままにここまできちゃったんだと思うんで、その垣根がちょっと取れる必要がある。
でAのあなたの役割は何かっていうと議長さんだと考えればいいかな。つまりあなただけじゃダメなんだということで、子供の自分を取り戻さないといけないし、それから言いたいことはちゃんと言ったり、頭に来たことについてはどうして頭に来たかということをちゃんと言えたりしないといけないと思うんだ。優等生ばっかりやっている自分に対してCは不信感を持っている。そうすると逆に言えば、自分の中に子供みたいに楽しくなったり少し甘えてみたり少しいたずらしてみたかったりっていう自分もいるねっていうことで楽しくなるし、やっぱ喜びの部分がBなんですよね。だからCの自分は感情なだけ、怒りとか強さとか不信感とか、それと不信感も相当強いですよ。だからそれはちゃんと受け入れてあげれば、統合が出来ると。統合っていうのは要するにつながることなんです、部屋が3人皆行き来できるようになれば、家族になっちゃうと。厳密に皆さん統合っていうイメージだと、溶け合って一つのものになるようなイメージがあるけど、そうじゃなくていいんですよ。モザイクで結構なんで。人間っていうのはそういう存在だと僕は思うんですよ。
B~子ども人格について
というわけでまずですね、Bのことからまず理解できるといいと思うんですけどね。結局甘えることはあまり許されない家庭だったのかな。そこはあなたの解説が必要だ。
■僕三人兄弟の一番上で、下に妹と弟がいて、もう三歳くらいで「お兄ちゃん」とよばれるようになったんですよ。で長兄みたいな感じの立場を演じさせられるというか、要は下の二人の面倒をみないとダメだというか、面倒を見ると褒められるっていう感じなんで。
□それはどっちの方が強かったの、お母さま?
■いや両方ですね、両方ともお兄ちゃんとしての役割を押し付けてきたので。だから下の二人は僕に対して、父親が機能していないから二人とも僕に育てられたようなもんだって言ってましたから。父親は本当に気分屋で。
□お父さんは何してたの仕事?
■土木作業員ですね、工事現場の監督です。で結構暴れたりとかすることがよくあったんで、そういうときに下の二人をかばうのが僕の役割だったんで。で育てるときも学校の勉強を僕がみたりとか、そういう田舎の福島の面倒見がいい一番上のお兄ちゃんという役割を期待されてそれをしないといけないと。
□結構暴力的だったんですね。
■かなり暴力的でしたね。
□お母さんは入院中で病名が分からないっていうけどどういう症状でしたか?
■えっと父親にこの前電話で聞いたときには、自分で自分の首を絞めてしまうらしいんですよね。要は病院に入っていないとそういうことを始めるんで、父親の目の前で始めるんで病院に入れておくしかないっていうことを、父親から聞いたんですけど。ただ病院に私が電話して聞いたら、不安障害だっていうんですよね。ただ不安障害で、先生も前おっしゃいましたけど6年もずーっと入っているというのは不思議なんで、あるいはだから暴力を受けたりするんで、わかりませんけど病院に逃げているのかなと…。
□可能性高いね(笑)
■やっぱりそうですか、二人でいると暴力を受けるから…。
□それこそ解離している、かもしれない。
■どっちがですか?
□お母さん。
■ああやっぱり。
□うん。先生の前はそうでも、多分ご主人のいるときの自分と入れ替わっているかもしれない。解離というのは、そういう意味でいい子ちゃんを演じることが出来るんで、例えばAの自分でそういうことを鍛錬して作ってきたかもしれない(笑)
■長年の(笑)あまりよろしくないですね。
□ですね。3分の1で生きてるわけですから、幸せとはいえないわけですよ。多分そうすると不安障害だって言われているのね。6年も入院してるの?自分で入院したいって言わない限りは、6年も入院するわけないよ。不安障害で6年も入院するはずないもの。多分うちに帰りたくないんでしょうねぇ。
■そう思います。金がないんだって父親が言っていましたから。
□入院費がかさむってことでしょう。まあお父さんだってもう仕事が…
■もう年金生活です。
□そうですよね。
■で前電話したときに父親の態度が本当に悪かったので、その時に前もお話ししたように「うるせぇ」って言って自分で電話を切ったので、それ自体は自分の中でも進歩だったんですけど。その時に聞いた母親の話です。だから僕の目からみると、父親も母親もどうもなんか疾患があるなという感じなので。
□お父さんは分からないけれどね、そんなにかっとなりやすいっていうのは発達障害かもしれないね。
■あると思います。言葉は喋れるんですけど考え方も様式も独特ですから。僕も発達障害って先生に診断してもらいましたけど。
□大体ね軽い人の方が被害者になります。そういうことなんですね。重くて鈍感型の人は加害者になるんですよ。センシティブな方が被害者になる。そういう強力鈍感型のパートナーの相手方はすごいストレスを受けるんですよね。
■あの、カサンドラ…。
□んー、カサンドラぐらいでは生易しいんで、カサンドラっていうのは分かってくれないっていう程度の比喩で、ちょっと上品すぎて比喩としてはどうかなと。
■うちの嫁が、「アスペルガー障害者の妻たち」みたいなグループをFacebookで見つけて、これにあてはまっているっていっつも言っているんですけれども。
□あなたの場合は敏感型だから多分カサンドラレベルだと思うんですけども、向こうはもっとお父さんっていうのは障害レベルの重さですので、多分ハラスメントが中心になると思うんですよ。人を痛めつけるという。
■で僕の仕事は下の二人をそれから守る的なところがあったんで、ちゃんと家事をしていれば小学校のころから料理を作らされて両親が共働きで、そういうことをやらされてたわけですね。ただいまにして思うとやりたかったわけではないし、他の子どもみたいに甘えたり暴れたりしたかったしというのがすごい強いので。
□小さな親だったんだ。
■そうです。妹にしみじみ言われたのが「私たち二人は兄さんに育てられたようなもんだね」っていうのがあって、二人とも成績が良かったんですけど、それは僕が勉強を教えたりしていた部分があって。で僕も中高成績が良かったんで、だからうちの歴史というのはそういうことかなって最近読み解けてきたんですけれども。
□XXX高校だっけあなた。
■XXX高校です。でその、高校に入った時が成績が悪くなかったんですよ。で、地域ではあそこの高校は名門だみたいなのがあって、でそこでたまに1番とか取って帰ってきちゃうものだから、父親が有頂天になっちゃうんですよ。その前はなんともなかったのに、突然勉強ハラスメントを始めて、高い教材を買い与えたりとか始まったんですよね。で僕の中で大学受験もトラウマがあるんで。
□ああー、そうなの。
■で、東大に行けと三年間言われて。
□嫌だと(笑)入ってあげるもんかと。
■いやどうなんですかね。でそれで滑り止めの早稲田の政経に行って。ただそこでもう一年間浪人するかって時に、「この親父と一緒にいるのは嫌だ」って思っちゃったんですよ。それで早稲田に行ったんですけど、でも行ったら行ったで周りから「あれ東大行ったんじゃなかったの」って色々言われるんで。そういう学歴的なトラウマがままありまして。
なんか絵にかいたような地方のお話しなんですけど、ただ先生は福島におられたんでなんとなくあの雰囲気は分かっていただけると思いますけど。
□うんA高校とかね、それからB高ね。B高はもっとひどいですよ。あそこはB高に入ること自身が認められる条件みたいね。
■なんか不思議な社会ですね。
□なんかちょっと考えられないんですけど。
■私も考えられないんですけど、それこそ進学校に行かねば人にあらずみたいな。
□そこでトップクラスだったのねあなたはね。
■まあそうですね、変な期待を背負わされた部分はありました。
□その頃、要するにお父さんが有頂天になってしまったと。
■で本人は夜間高校卒業が最終学歴の人間なんで、学歴コンプレックスが酷かったみたいで。なんか母親の伯父が早稲田出身なんですけど、その人に結婚を反対されたとか昔色々あったらしくて、学歴がないから反対されたって本人は思っているみたいですけれど、僕はそうじゃないと思うんですけど。
□何かを買って勉強しろって言ったの?
■だから参考書みたいなものを高いものを突然買ってくるんですよ。何十万もするものを契約して買ってきちゃって。なんか不思議な期待のかけ方をされまして。パソコンが欲しいと言ったら、おじさんが15万くらいくれたんですけど、僕は普通に15万位のもので良かったんですけど、勝手にお金を足して40万のパソコンを突然買ってきちゃうとか。ほしいのがノートパソコンだったのに勝手にデスクトップパソコンを買っちゃうとか。そういう不思議なことを親父がいつもやっていたんで、で相談が全くないんで、そういう相談が出来ない所が発達障害だなと。
□勝手に買ってくると。それはやはりアスペルガーだね。
■だから似ているところがあるというのはその辺だろうと思っていますけど、父親と私が。
Bを呼び出してみる
□ちょっとだけね、Bのあなたと話してみようか。
■はい?
□あなたは、後ろでそのやり取りを聞いて下さい。じゃあやりましょうか。
(自我状態療法的な作業でBを呼び出す)
あなたは何て呼ばれていたかな?小さい時。
■ちーぼう。
□じゃあちーぼう君って呼んでいいね。じゃあちーぼう君、今何が見えるかお話しして。
■今見えるものですか?
□はーい、ちーぼう君が見えるもの。
■じいちゃんの家。
□じいちゃんの家で、何が見えますか?
■ゲームをやっています。
□ゲーム。なんのゲームをやっているの?
■フィッターっていうゲームです。
□へぇ。それはどんなゲームなの?
■パズルゲームです。
□パズル。好き?
■大好きです。
□大好きなんだ。ふーん。どうしておじいちゃんの家にいるのかな。誰もいないのおうちには?家には誰もいないのかな。
■弟が生まれるからだと思います。
□ああそうか。お母さんがお産に行ってるの。
■はい。でおじいちゃんの家に預けられているの。
□ああそうなんだ。でお家帰ると怖いかい?
■怖いです。
□お父さんどうして、どういう風に怖いの?
■お父さん暴れるから怖い。
□暴れる。どういうときに暴れるの?
■夜になると暴れます。
□夜になると。気に入らないことがあると。
■そうです。
□で、ちーぼう君はその時に自分が悪い子なんだと思っちゃうのかなあ。それとも暴れるお父さんは変だねと思っていたのかなあ。
■全く分からないです。
□分からない。なんで暴れるか分からないんだ。だから怖かったのね。
■怖いです。
□そうなんだね。で怖い時にどうしてたの?君はどうしてるの?
■怖い時は何もできない。
□動けないんだ。
■動けなかったです。
□ああ可哀そうになあそうなんだ。お母さんには、ママには甘えることはできたの?
■お母さんは守ってくれないから。
□お母さんは守ってくれなかったんだ。それはつらかったねじゃあね。
■はい。
□そうかそれは知らなかった。そうなのね。お父さんに対してもお母さんは怖がってたの?
■お母さんはいじめられているから。
□いじめられているから守れるだけの力がなかったのね。じゃあママにはあまり甘えられなかったんだね。
■甘えられなかった。
□そうかそうか色々な辛いことがあったんだね本当はね。それじゃね、少しずつ今のあなたに戻ってきますよ。
(自我状態療法的な解法でBから戻る)
Bー子ども人格についての考察
□どうですか、子供の自分の中に入ってびっくりしたでしょう。
■そうですね。
□辛かったよね子ども時代。
■そうですね、結構つらかったですね。
□お母さんが守るだけの力がなかったってのは大きかったね。
■守ってくれなかったですね。守りたかったのかもしれなかったですけど、止めてくれなかったですね。で本当にどうしようもなくなってから止めには入るんですけど。
□お父さんはお酒飲むの?
■飲みます。
□お酒飲んで暴れるんじゃないの。
■いやあの、お酒飲んで暴れるパターンが多いです。本当にアルコール依存みたいな。
□そうですね、そうですね。酒だと思うけどね直接は。
■祖父もそうなんで。
□ああそう。
■で僕はお酒を飲まないようにしているんですけど。
□ああそうなんだ。依存性があるんですよ、ASDの人ってね。酒に酔っぱらって暴れてると、周りからしてみるとなんで暴れてるかは分からないですね。
■なんとなく祖父の方は、酒飲むと暴れるっていうのは聞いていて、でも僕の目の前では優しいおじいさんでしたけどね。で、父親にいわせると自分は祖父よりはましだって言うんですけど、十分酷いと思うんですが。
□昔の風景がかなり鮮明に見えたでしょ。
■そうですね。でも僕の記憶って2~3歳から鮮明に覚えているんで、写真を見て思い出したものかもしれないですけど、他の人より写真的な記憶が残っているんで。発達障害の人特有のタイムスリップかもしれないんですけど。
□こんな感じで少しずつやっていこうとね。でAのあなたがBにどのように接したらいいのかとか、BはAに何してもらいたいのかくらいから始めていこうと思っています。でCはそれを見ていると思って下さい。実は今日のやり取りもCの自分が見ています。聞いていますので。
■ABだけじゃなくて?
□でCは慎重ですので、僕が信用できるかどうかまだ評価中(笑)
■笑
□でも一つ安心したのは、Cが聞いていて一つ安心したことは、やっぱり自分が消されるんじゃないかと思っている人が多いんですよ。Cは要らない、Cは邪魔だと。だから隠してたわけですから本人。そうじゃなくて、Cも大事だということがちゃんとしっかりと聞いて、「それは本当かな?」と思ってるだけだから。(笑)そういうもんです。ちゃんと聞いてますから。
(了)
第1回目の感想
Bを呼び出すとカウンセラーの方が言った途端、「えっ、マジ?」という感じで一瞬息が止まりそうでした。「自我状態療法的な作業」については、諸般の事情により詳細は書けません。僕はこのころ、まだ半信半疑でカウンセラーの言うことを聞いていました。でもBが言っていたことは、まぎれもない僕の幼少時の風景だったのです。
コメント