第7回 カウンセリング終了
前回のカウンセリングで「第三コーナーを回ったところ」と言われて喜んでいたら、早くも全7回でカウンセリングが終了となりました。「精神療法とはこういうものか」と納得の結果です。それでは続きをどうぞ。
□はカウンセラー、■は僕の発言
□今日もあなたのお話ししたいことを話してみて下さい。
■前回から二週間で、ゴールが見えそうだということを先生からうかがって私個人としてもうれしくなってしまったんですけど、家内に伝えたら喜んでいまして、それは良かったと。家内は冗談で「私の治療が終わったら先生と飲みに行きたい」と言っていたんですけど。
□爆笑
■進んでいてうれしいということなんですが。私の状態としても本当に安定していまして、自分でも安定していると思いますし、家内もそう言っているんですが。で仕事で時々変なプレッシャーとか、今日も午前中ずっと締め切りがある仕事をやっていたんですけど、前は締め切りがあるときに結構不安定になったりしていたんですけど、最近はそうでもなくて、間に合わなかったら相談すればいいんだっていうのが出て来まして。発達障害の勉強で「相談すればいいんだよ」っていうのが、相談できないっていうのがありましたんで、ストレスに対応する方法が少しずつ分かってきている感じですね。
解離の話でいうと、前お話しした通り、AとBは連続体で出てきている感じがするんですけど、前にCを呼び出していただいて、Bが可愛いと思うとジョンが言っていたので、そこが上手くつながってくると解離が解消されるなと思って、それを考えているというか実践したいなと考えていました。普段の生活で、今どういう状態だというのを意識するようにしていました。
□三人が対立関係じゃなくなってきたんですね。協調関係になってきたと。
■そうですね、協調したいって思い始めましたので。それで物の本なんか読むと、多重人格状態から今度それがまとまってくると、その時のストレスの対応の仕方というのが課題として出てくるみたいな話があるんですけど、それは三者で協力して対応していけばよかろうという感じで。その辺、今後の課題があるにしても進歩があるということを先生に言っていただいたので、うれしくでもないですが二週間を過ごした感じですね。
人格が融合すると何が起きるか
□新しい人格が融合してできる時に不安定になるっていうけれども、大体それは実は終わっているんですよ。あの、中に入るっていう感覚あるでしょ?
■ええ、分かりますね。
□で安定したとか良くなってきたとかいう感覚をあなたも実感しているわけね。強迫的な感覚がなくなってきたんでしょう?
■そうですね、今は割と「何とかなるんじゃね」みたいな感じで思っているんで。前は「なんともならないんじゃね」って感じで強迫的で絶望的だったんですけど、今は減りましたね。昔のことを思い出すことは減りましたね。前は目の前のことが上手くいっていないと昔のことが思い出されましたけど、今は思い出しませんね。昔は昔のことなんで、目の前に両親がいるわけでもないので。当たり前ではあるんですが、そのことが実感を伴って分かってきたというのが普段の生活ですね。まあ今はストレスの量を減らしている部分もあるので、大きいストレスがかかってきたときにどうなるんだってのは別ですけど、普段の生活では楽にやらせてもらってますけど。
□これから大きなストレスがあるというのは具体的にどういうことがあるんですか?
■いや分かりませんけど、仕事というかこれから中長期で考えた時に僕がどういう方向に進むかでもやもやすることがあると思うんですけど、そういう時は目の前のことをやるだけだとは思っているんで、自分が納得いくようにやればよかろうと思っているんですけど。
今ここでやれることをやってみる
□あんまり難しく考えなくていいんですよ。自分が今、その時現時点で何が出来そうかなということと、今それをやるだけのパワーがあるかなと。で今ちょっとパワーが足りないんだったらちょっと待とうかでもいいんですよ。やってみようかなというのは、失敗したって大したことないんだから一応やるだけやってみようかでもいいんですよ。結論が重要なんじゃなくて、自分に問うてみるということとか。そして自分の決定に委ねること。それがあなた小さい時に自分が奪われてきたことだよ。
■結果よりプロセスですよね。
□あなたの本当にやりたかったことというのはあったわけですよね、小さい時に。満たされなかったけれど、なかったら不満が出てくる。子どもの時はある意味で決定権を奪われる、親が決めちゃう、それに反抗できませんからね。今だったら自分で決定できるっていうことはすごく大きなことです。自己決定権を取り戻したっていう。それはある種の合議制なので、自分の中で「やってみたいことなのかな」って問うてみて、ああやっぱりやりたいんだとか、「これちょっと無理ムリ」ってことになったらもう少し次のチャンスで、とか。他人の決定じゃなくて自分の決定を大事にしていけばいいんじゃない。で失敗したってそれは自分の責任だから大丈夫だ、大したこと起こらないねって。ま金銭的な問題があったりするかもしれないけれども、それは専門の人が居るから、これやってみるかでそれは構わない。結果は自分で引き受ければいいっていう風に考えればいいんで。今までの子どもの自分の状態だと、失敗すると叱られるっていう風になる。結果が受け入れられないとか、そうなっちゃう。自分で結果を引き受けるっていうことになっていれば、大丈夫じゃない?大事なのは本当にやりたいのかどうなのかっていうことですよね。
■途中から国際的なとか言葉を使ってとかいうことでそれなりにやってきたんですけど、それって例えは変なんですけど調味料でしかなくて、食材みたいなものを見つけて自分がやりたいことをやっていくのがいいんじゃないかって嫁さんとも話していたんですけど。こういうコロナの時期で日本にいるしかないんで、以前はもう国際的なものってほぼ絶望みたいな感じだったんですけど。
□今睡眠はどれくらいとってます?
■結構十分にとってます。6~7時間は取っていて、下手したら昼寝もしているので。いただいた薬がとてつもなく僕には効くんで。僕には合っているんで。
□ご自分で減らしていっていただいて構いませんので。
あまり残っている問題はなくなってきたんじゃないですか?
■そうですね、解離とかに関してはそうですね。当然発達障害は、あれはあれでコーピングするしかないのと、それと最初に先生に診断された時に、主な障害が気分性障害っていうことでしたんで、それはお薬の方は続けるというお話しでしたけど。あれはもう患者としてはどうしようもないんですよね?
□いやあ安定してくると、気分は安定してきますから。不安定になると普段やっぱり激しくなるんですよ。だから薬を減量ないしゼロにすることも可能になるかも知れません。そういうものだと思って下さい。
■じゃあ患者としては安定するように努めていけばいずれはってことですね。
□そうですね、可能性は高いと思いますね。やっぱり気分障害にしても、例えば4、5年間症状がなければ一旦止めてもいいんじゃないかと思いますけどね。今の治り方だったら大丈夫だと思うんですよ。急に抜くとちょっと症状がぶり返すことがありますから、減量はゆっくりやっていけばいいと思うんでね。
今はどうなんですか、ご両親に対する感情はどうなの?
■いやでも考えないですね、結局前の話で父親に対する感情は変わりましたよね。私が思っていたようなモンスターではないのかなというか。当然その、両親ともに発達障害の気があって、私と3者の間でフィットしないことが多々あったんだと思うんですね。その中で色々なことが起きて。だから父親はそんな感じで、もしかしたら彼のいい面があって、僕が思っているような人ではなかったのではないのかもと。
で母親に関しては入院とかしちゃってどうしようもないんですが、決して僕が美化していたような感じの人ではなかったのではないとある意味距離を置いて見れるんで。
□お母さんはどっちかというと美化していたんですね?
■そうですね。
□お父さんはモンスターだとね。かなり極端だったんだね。
■そういう話を吹き込まれていたんでしょうけど。
□実際お父さんはあれでしょう、自分の思う通りにならないと結構暴力的だったんじゃないですか?
■そうです。
□子どもというのは、お父さんを怒らせないように一所懸命努力している、みんなそうじゃないですか?これも辛いよね結構ね。
■どこにボタンがあるか分からないんです。
□そうだよね、突発的に怒りが来るから場所が分からない恐怖がありますね。
■普通の人はそうじゃなくて、ボタンの在処が分かるはずなんですが、普通じゃない親なので、どこに地雷があるのか分からないというか。それが分からないのが僕の辛いところで、人と人の付き合いの基本形が分かっていないというか。僕が小さい時も色々な人が優しくしてくれたはずなんですが、それが僕には響かなかったっていうか。ですんで距離を置いて見れるようになったっていうのは大きいですね。逆に家庭の話を外ですることってなかったんで、こうやって先生の前でお話しとかすると、客観的に見えてくるなと思うんですけど。
□お父様がそういう固執傾向が強いとすれば、多分お父様の見ている世界の通りにあなたをそこに押し込めようとするでしょうね。自分の価値観だとか論理とかその中に押し込もうとするから、こういう風にすると幸せになるとか、こういう風にすると成功するとか、その通りになんないと怒りが出てくるんだろうね。
羅生門的世界
■今でも覚えているのは、「俺の観たいビデオを借りて来い」っていうんですよ。
□それはすごいね。
■レンタルビデオ屋に行って、いいビデオを借りてくると褒めるんですが、つまらないとご機嫌が悪くなるというか。自分で行って来ればいいじゃないかと思うんですが、まあそういう、典型的な発達障害というか。
□そういうお父様に対して、お母さまはあなたにどういう評価を言っていたの?
■だから、父親と僕は同じ感じだからぶつかるんだっていうことを言ってましたね。同じではないと思うんですが、だからまあ逃げ回っている感じでしたよね。僕らの前で言うことと親父の前で言うことと。
□お母さまはあなたと同盟を結ぶっていう意向が強い人だったですか?それとも少し遠い人だったの?
■いや同盟ですね。僕をうまく使って、先生がおっしゃったもう一人の養育者に仕立て上げて、うまくやっていこうという風に僕には見えてたんですけど、でも今見ると思ってたほどやさしく同盟を結んで仲良くやろうぜっていう風には見えないんですけど。意外と冷たい感じですよね。
□それはあなたの直感は意外と正しいかも。つまりね、同盟というのが、普通の意味の同盟ではないんだと思うんですよ。共依存の関係の同盟ですから、あなたがお母さんの補助自我であることを期待する関係。だからお母さんの意向をあなたが汲んでお父さんに対して批判的であることを望んだという、あなたは愛されているっていう感覚があまりないんじゃない?愛しているのは彼女自身。っていう感覚がどっかあるのかもしれない。
■そうですね。僕の感覚としては、長男で一番上なんで下の二人と差をつけはするけれど、この二人は人間としての僕のことを好きではないんだろうなということを思っていました。両親に対して。学校で同級生だったら友達にならないだろうなと。こういう言い方も変ですが。
□どこか僕のことを好きじゃないと思っていたの?
■そうですね、直感的にそんな気がしますね。長男だからやっている、長男だからという条件付きの気が。
□多分、お母さんはご存命ですよね?お母さんにこの話をしたら、否定しますよ。それはお母さんの観ている景色なんです。あなたが見ている景色と違うんだと思う。お母さんの意識としては、「いや、長男としてじゃなくて自分にとってはかけがいのない息子だ」って多分おっしゃると思う。でもあなたにとっては、そういう感覚、無条件に愛されているっていう感覚が多分乏しかったんだと思う。そうじゃないと解離は起こりませんからね。でもなんで無条件に愛された感覚がなかったのっていったら、多分お母さんが自分の自我を補強する対象としてあなたを使ったんだと思うんで、あなたに依存関係を作らせてその関係を彼女が利用するっていう、だから共依存の関係ってそういうことなんです。依存を作ることで自分も依存していくと。お母さんは自分の分身だからあなたのことを褒めないですよ。やって当たり前。失敗すると怒りが出てくる。そのシステムをお母さん自身気付かないから、愛しただけ覚えているんです。子どもにとってはそれは愛と言わないよというのが本音だと思うんですけど、景色が違うんですね。これは多分お母さんとの間でずっと埋まらない溝だと思いますから、そういうものだとあなた思っていた方がいいですよ。多分納得しないはずです。お母さんの世界は愛してきたっていうことだと思うんです。あとお父さんはお父さんで、とにかく男が社会に出るということは大変なことなんだから、とにかくやるべきことをちゃんとやらなければならないという主義の方でしょうから、それなりに息子のことを教育してきたと思ってんじゃないですか。で自分の教育は、まあなんとなく成功したと思っているはずですよ。
■苦笑
□そりゃあなた納得できないと思うんだけど。それぞれの景色ですね。三者三様ですね。昔羅生門って映画があって…
(雑談)
■その溝というのはある意味どうしようもないことなんですね。
□まああなたが大人になっていれば、まあこれはしょうがないねってことで。ああいう人間関係作っちゃったらまずいんだなあ、自分たちはそうしないようにしようねっていうので考えればいいと思うんだ。やっぱりあの、なかなか親に対する怒りは取れないのが普通ですからね。
■ああそうですよねー。
□よくね子どもが「僕の青春時代を返せ」って叫ぶんですよ。あれはよく分かるよね。あれは親にとっては謎の言葉です。あれだけ尽くしたのに何が足りないんだっていう。でも実際は親がつぶしちゃったんだよね。期待というのも残酷なものですね。
■まあ僕はでもこの前ジョンを呼び出していただいて、なんで産んだんだって言ってましたけど、あれは小さい頃の僕の偽らざる気持ちですね。嫌なことが多くて、寒い時期にそれが多くて。ですけど、でもまあ昔のことですからねって言えるようになってきたので。
□辛かったってことを皆で共有してほしいというのが誰でもあると思う。辛かったって思うことを大したことないってなると相当ダメージが来ちゃいます。辛かったんだねってことをあなたの中で3人が共有することって大事だと思う。
■今共有できそうな感じになってきたので。
□辛かったし悔しかったし。あなたの弟さんや妹さんは問題なかったの?
■いや、弟も問題があるというか、音信不通なんですけど。
(以下弟の話)
■僕が解体したのかも知れないですけど、うちの実家は分解状態ですね。
□福島から出たっていうことでね、全部プレッシャーが弟さんの方に行った可能性があるね。
■一時期はあったと思います。妹も家を出て、何年か両親と弟だけの3人暮らしでプレッシャーはあったと思います。なんかいつも父親が酒を飲んで悪口を言っていると言っていました。
□あなたの悪口?
■よほど固執してるんじゃないですかね。
□どういう悪口だか覚えてます?
■なんでしょう、大学だしてやったのに恩知らずみたいなことを弟に言っていると聞きましたけど。
□今お父さんやお母さんもあなたが出たことを恨みに思っているのかな?
■うーんそうですね。
□あなたがどうして福島から出たいと思ったか覚えています?大学を出ることも福島から出る一歩ですよね。
■僕はチャンスを最大限に生かそうという行動原理で、シンガポール派遣の3年間を過ごしたので。
□早稲田のキャッチコピーの中にシンガポールがあったの?
■いや、ずっと後の話です。県庁時代です。それまで僕はずっと県庁にいるつもりでいて、でもあまりに退屈なので、先生の前でこんなことを言っていいのか分かりませんが医学部でも受けなおそうかと思っていたくらいなので。そうしたらシンガポールの話が来たんで。
□そしてチャレンジしたら成功したわけね。
■根回しはしてたんですけど、いつもそうなんで。県庁の英会話サークルに顔を出すとか、国際交流員と仲良くなっておくとか。
□それがちゃんと出来るってことは、発達障害としてはうんと軽い方だと思います。根回しは出来ませんから重たい人は。なんでかっていうとね、根回しって結局先の変化を読み切らないと出来ないですよ。それがあなたの場合には問題なくやり切れていたから。
■狡い人間だと思います、自分でも。
□いや、狡いって言わないんだこの場合(笑)ちゃんと変化を見通せるってことは重要なんですね。
■そういうことなんですね。
(以下シンガポールの雑談)
□僕のとこの患者さんでシンガポール人と結婚している人あなたで3人目だ。
■じゃあどこかで会っているかも知れませんね。
□でもあなたにとっていい奥さん見つけたな。
■本当そうですね。
エピローグ
□今ここで何か残っている問題がありそうだって感じありますか?
■残っている問題ですか、どうですかね。
□大体なさそう、片が付いたなって感じはありますか?
■両親に対してはなくなってきている感じがあります。
□自分自身に対してはどうです?
■自分自身も良くなってきているので、この方向で行けばよかろうという感じがあります。
□そうすると、カウンセリングこれで終了です。
■本当ですか?
□あとは保険診療で来てくれればいいんじゃない。でなんか問題がおこればまたお会いすればいいんです。ね。一応終わったあとで問題が出てくる場合もあるんですよ。大体そういうときは短期で一回二回やるだけで解決がつく場合が多いから。
■ありがとうございます。
□あなた早かった。
■7回ですからね。
□薬は少しずつ減らしていきますからね。コロナだから一緒に飲めないのが残念ですけどね。お酒の席で伝染るんですよ。大体終わりって分かるでしょ、不思議に。じゃあ奥様によろしく。
(了)
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