1894年創業の老舗甘味処
これは若松に限ったことではないが―
大体銀座の老舗というものは、通りをただ漫然と歩いていては到底気付き得ない佇まいで、ひっそりとしめやかにそこに息づいている場合が多い。店が古ければ古いほど、万事控えめに装飾もない実直な店構えで、老舗には縁の薄い観光客から上手く自己韜晦しカモフラージュしてみせるのだ。
銀座四丁目交差点からほど近いコアビルの1Fにある「銀座若松」も、そんな息の長い老舗の一つである。そもそもこの店はコアビルの中に入ってフロア奥まで進むか、あるいはコアビル裏から横に抜ける小路(Ginza Alley)を通らないと、通行人の目に入らないように出来ている。
僕はどちらかというとこの吹き抜けの小路側から見るこの店の入り口が好きだ。テイクアウト用の甘味が並んでいるのを見ると、なんだかわくわくしてくる気分を抑えることが出来なくなる。
創業は明治27年というから、1894年、日清戦争が始まった年だ。その頃の銀座は、僕の知る限り、家事で焼ける前の煉瓦街を馬車が通りぬけるハイカラな街だった。
「あんみつ発祥」のお店
お店の紹介によれば、昭和5年(1930年)にここの二代目が今のようなあんみつの形を考案したという、あんみつ発祥の地を謳っている。よって、メニューにもちゃんと「元祖あんみつ」という一品が存在する。若松は季節ごとに限定あんみつ(例えば春の季節にはさくらあんみつなど)を企画するので、そうした限定メニューを頼んで違いを楽しむのも全く悪くないのだが、僕はいつもたいてい元祖あんみつを注文する。
「元祖あんみつ」のポテンシャル
あんみつを提供するお店は銀座に限らずたくさんあるのだけれど、若松のあんみつで特筆すべきは、まずあんみつ全体を構成する甘味アイテム、一品一品の味の確かさだろう。
若松で出される餡子は、甘味をやや抑えた上品なこし餡である。そして黒蜜はコクがあり、蜜それだけでも十分に味わい深い。
この二つがそろって「あんみつ」な訳だが、底にはぎっしり寒天が敷かれ、その上にミカン、パイン、ピーチにさくらんぼ、そしてカラフルな求肥や寒天ゼリーがトッピングされている。
しかし僕に言わせれば、このあんみつの影の主役は、実は甘味アイテム達ではなく、中に入っている塩豆なのである。主張激しいカラフルな出演者たちを黒蜜がまとめ上げる中に、豆のしょっぱさがきりっと一本通って全体の甘さをより際立たせる。まあ、スイカにかける塩なんて言ってしまうと身もふたもないのだが、とにかくそういう締め方をしてくれるのがこの豆だ。こればかりは食べてみないと分からない。慣れてくると、ひたすら豆と甘味の往復運動になってくる。
白玉もうまい
そうそう、若松を語る上で白玉も忘れてはいけない。ここの冷やししるこは、ぱっと見は特筆することもなさそうな普通のぜんざいに見える。
しかし、一口食べるとまず控えめな甘さのあんこにノックアウトされる。そして、白玉の、弾力がある中に柔らかく千切れる感触が病みつきになるのだ。正直なところ、最初に見た時は「え、これだけ?」と思ってしまった。しかし最後まで食べてみると、「ああ、これだけで十分なのだ」と得心がいくような、そんな満足感がある一杯である。
暖かい雰囲気の店構え
店内は緑の椅子類とクリーム色の壁を基調にした、どことなく懐かしい店構えである。少し椅子が小さすぎるような気がしないでもないが、しかし老舗の雰囲気を感じるためにはこういう家具の方がむしろ好都合ともいえるだろう。
「銀座に来たなあ」という気分を味わうためには、実にうってつけの店だと僕は思っている。
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