2014年9月のある日。突然僕は営業部長に呼ばれました。「Zenさ~ん、至急シンガポールに行ってくれないかな」
おお、うちでもシンガポールに出張なんてあるんですね?珍しい。
「今ねぇ、シンガポールに入れたポンプが大変なんだよ。漏れが出ているっていうんで、お客さんがカンカンなんだ。シンガポールといえばZenさんだ。営業マンと一緒に、一回現場を見てきてくれないかな」
「分かりました!(シンガポール!タダ帰省!)」
…パンドラの箱が開いてしまった瞬間でした。
通訳生活のクライマックス
このポンプを復旧させるために、僕は結局シンガポールに6回、アメリカに3回出張することになりました。日程は以下の通り:
シンガポール② 2014.10.28-11.4 (7 days)
シンガポール③ 2014.11.25-12.1 (7 days)
アメリカ① 2015.1.5-15 (11 days)
アメリカ② 2015.1.27-2.5 (10 days)
アメリカ③ 2015.4.6-11 (6 days)
シンガポール④ 2015.4.15-26 (12 days)
シンガポール⑤ 2015.5.19-22 (4 days)
シンガポール⑥ 2015.9.28-10.2 (5 days)
合計滞在日数 シンガポール43日間 アメリカ27日間
お漏らしが止まらない巨大ポンプの付属部品
出張に至る経緯をかいつまんで説明すると、日系某プラントメーカーに弊社からギアポンプという、ギアを噛ませて液体を搬送する米国製ポンプを数年前に販売したのですが、その付属部品で、液体が漏れないようにする軸封(メカニカルシールといいます)からシーリングオイルが漏れて止まらないというのです。しかも現場は日本ではなくシンガポールのジュロン島で、この漏れ問題のせいでプラントが本稼働できなくて困っている、とのこと。緊急性が高いので、すぐにでも来て直してくれという依頼です。
【参考】メカニカルシールとは
通常うちで扱っているギアポンプは、卓上で扱える30cm前後の大きさのポンプがほとんどなのですが、この現場はジュロンの巨大プラントなので、使用するこのギアポンプも通常ではあり得ない大きさなのです。下の写真をご覧になると、その大きさが分かろうというものです。


機材なしではそもそも持ち上がりません
ポンプのパーツを一個一個取り外すだけで、チェーンジャッキや様々な治具が必要になる大変なモンスターポンプです。てか、なんでこんな面倒なもの売ったんだろう。
初回(9/13-21)緊急なので夜行便で出発
今回僕と一緒にシンガポールに行くのは、このポンプを扱って30年以上というベテランの営業マンHさんと、うちのエンジニアチームの凄腕Iさんです。僕ら3人は、急ぎだというので成田20:50発のSQ11便でシンガポールに向かいます。チャンギに到着するのは朝3時(!)です。僕は今まで、時間帯が変なのでこのSQ11便に乗ったことはありませんでしたが、A380はいつも通り快適な機体でした。揺れも少ないし、座席周りにも十分なスペースがあります。眠れたかというとそれほどではないですが、うつらうつらくらいは出来ました。
無事チャンギに到着し、朝4時にイーストの某ホテルに着きました。事情を説明し、追加費用を払うので部屋で仮眠させてくれとお願いして部屋をアレンジしてもらいました。しかし夜行便はやっぱり疲れます。首肩腰がクタクタです。
現地の協力体制
今回漏れが起きたポンプは、すでに我々が手配して、ジュロン島内プラントからすぐ近くの倉庫会社にすでに撤去移動されていました。このポンプメーカーはアメリカはアイオワ州のメーカーですが、シンガポールにも現地代理店があるので、そこでも簡単なメンテナンスや修理が出来ます。が、今回このシンガポール支店が及び腰で全く埒が開かないので、我々が緊急招集されたとこういうわけです。実際のポンプの分解清掃等は、この倉庫会社がやってくれます。
初見の感想
さて問題のポンプとシールですが、うちの営業マンとエンジニアの見立てでは、数回しか使用していない割にはポンプ内部の摩耗や損傷が大きいです。何か変なスラッジを搬送したかのような、不自然な痕跡が目立ちます。ポンプの機能がどうこうというより、不適切な使い方をしていてトラブルが発生した印象を受けました。個人的には、ポンプもメカニカルシールもいいけれど、プラントの供給系統も含め、全体の検証が必要な風に思えました。
メカニカルシールそのものにも問題はなさそう
軸封はポンプのシャフトに付くものなので、仮にシャフトが曲がってしまったりしてブレが生じるようだと、回転時にブレてその隙間からシーリングオイルの漏れが生じることは十分にありえます。しかし今回うちのエンジニアが精密に検査をしましたが、シャフト自体にブレはないようです。目視で見ても、静止時にも回転時にもオイルが漏れ出てくる気配は見えません。
幸い、この米国製メカシ(と業界では呼びます)メーカーの営業所がシンガポールにあるので、今回ポンプから取り外してシール面のカーボン等を検査してもらいましたが、メカニカルシール自体に問題はありませんでした。水密検査も、高圧ガス検査も問題なくパスします。
対策として、純日本製のメカニカルシールに変更することに
このギアポンプの現地代理店も、米国製メカニカルシールの営業所もそうですが、こういう問題対応になると、客先や我々が思うような対応をしてくれず、どちらかというとこの問題から逃げたい素振りが随所に現れてきます。もちろん、英語とか言葉の壁もあるのでしょうが、「ダメなものはダメじゃね」的な、ハナから諦めている姿勢に僕らは何度も煮え湯を飲まされました。
特にメカニカルシールは、ガス検査水密検査、あらゆる検査をして全く問題ないのに、現場に一晩放置するだけで、確かにシールオイルが全て抜け出てしまう始末。
この頃僕らはこのメカシの不具合を第一に疑っていたので、とうとう日本の某メカニカルシール専門メーカーにお願いして、このポンプ専用で新規シールを作ってもらうことにしました。少なくともこうすれば、メカシに起因する問題は全て日本の専門家が分析・対応を行ってくれるのです。お客さんからも直接この日本メーカーに相談できるので、我々が間に入らなくて済みます。かなりの出費ですが、このプラントメーカーは我々にとっても大口の大事なお客様なので、このまま問題を放置するわけには行きません。
幸い、この日本メーカーもシンガポールに出張所があるので、そこの社員さんと至急打ち合わせをして、既存のメカシの解析をお願いし、新しいメカシを持って再度来月にシンガポールに来ることに決まり、今回の出張は終わりです。
緊急トラブルでも、いやむしろトラブルだからこそオフタイムを満喫
さて日中の仕事自体は、客先からの強いプレッシャーとなかなか先の見えないトラブルシューティングで地味に消耗しますが、そんな時こそオフタイムでの気分転換がカギとなってきます。今回同行する二人は、もちろんシンガポールに来たことなんてありません。彼らは本当にラッキーですーなぜなら、僕というシンガポールガイドのプロがつきっきりで相手をしてくれるのですから。
美食の都シンガポールを代表する、僕おすすめの料理をたくさん彼らには紹介してあげました。


白ホッケンミーにエビ麺にカエル鍋
プライベートでは、姪っ子と初対面
ちなみに今回の訪星は急に決まったので、ちょっとしたビックリで驚かせてあげようということで義母にだけ知らせず、シンガポールに着いた日の夜に遊びに行きました。僕を見た義母は「え?何で?うちの娘は?」と??状態。ドッキリ成功です。
滞在中、時間を見て義家族と飯を食べに行ったり、8月に生まれたばかりの姪っ子に対面したりと、仕事自体はまああれですがプライベートは充実した出張になりました。
この話、結構長いので続きます。
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