前回記事はこちら
https://schliemann.tokyo/trip-to-sg2-2014/
前回までのあらすじ
とは口が裂けても言えない有馬は、曖昧な愛想笑いの通訳でお客さんと現地エンジニアに誤解と愛嬌を振りまく。口は達者だが何も解決できないポンプ現地代理店と、「現場では漏れるのかもしれないけどテスト環境では全く問題ないヨ」と無意味な太鼓判を押す米国メカニカルシール代理店に業を煮やした有馬たちは、ついに「伝家の宝刀」Made in Japan as No.1シールを抜く。この短剣で、乱れに乱れたプラント試運転スケジュールの業は断ち切れるのか?風雲渦巻く第三章。
冗談はさておき
待ちに待ったプラントのダウンタイムが12月と決まり、僕ら陽気な3人組もまたシンガポールにやってきました。今回は持ち込む機械部品もないし、オレンジ色のジャンプスーツと安全靴も義実家に預けっぱなしなので、手ぶらに近い状態で堂々の日中便で夕方シンガポールに着きます。
「これで上手くいってしまえば、もうシンガポールに来るのも最後かも知れないね」
と営業さんは今から淡い期待を現場での据え付け実験にかけています。
「しばらくこんな出張はないでしょうなぁ」
と僕。が、しかしです。そういう言葉を吐くと、いつか木霊となってまた自分に跳ね返ってくるものなのです。実際は、こんな出張が年が明けてもまた続くことになるとも知らず…。
毎度恒例、ジュロン島に来るだけで疲労困憊
すでに事前に現地の協力会社(倉庫会社)に連絡が行っていて、僕らがシンガポールに来るまでに、ポンプ本体と関連部品は、ジュロン島奥地のプラント敷地に搬入され、最終取り付けを待つばかりとなっています。

ホテルから見る朝焼け
僕らも逸る心を抑えながら、朝イチでホテルロビーからタクシーに乗り込みます。
「おはようございます、サー!今日は一体どちらへ?」
「悪いがジュロン島へやってくれ」
「ええっ?ジュロンって、あのジュロン島ですかい旦那!?バートパークじゃなくて?」
「そうだ、しかもジュロン島の入り口じゃなくて、奥の方の〇〇コンプレックスに行ってほしいんだ」
「……。」
(あー、またかよ)と僕は思いますが、ドライバーさんにしてみれば(ああ、またかよ!)という気分かもしれません。ジュロン島に行くと告げて、喜んだドライバーはかつて見たことがありません。今日もまた、宥め賺す時間が始まります。
そしてタクシーを見失う
まず、僕らが泊っている都心のホテルからジュロンに向かう時点で結構な距離です。CTEからAYEに抜け、17番出口できちんと出なければなりません。一回この出口を忘れたドライバーがいて喧嘩になったので、余裕をもって「17番出口からお願いねウフ」と事前に伝えます。
17番を降りて左に曲がるとジュロン島へと向かう陸橋があるのですが、まずここに貨物トラックが集中して朝の渋滞。さらに、入口のゲートは車種によって使えるゲートが違うので、割りこんだり横断したりハチャメチャな運転をする車が多くてカオス状態に。

本当にごちゃごちゃです
そして、タクシードライバーに「いったん降りるけど出た先で待っててね、ゲートくぐって出てくるから。絶対にゲートから先の橋に出ないでね。戻ってこれないから」と強く念を押します。不安な心を抑えながら、持ち物は念のため全部持ってタクシーを降ります。そしてゲートでパスポートを預けて裏から出ると、なんてこった、今日のタクシーはここで待ってない…。
僕らはタクシーを見失ってしまったのです。てか、支払いしてないんだけど。携帯番号も分からん…。
しばし茫然としたのち、やむなく僕は再度ゲートを逆行して戻り、その辺にいたタクシーを捕まえてなだめすかしてようやく再度ゲートを通過、同僚を拾ってようやくコンプレックスにたどり着きました。
いざ、試運転!
さて、現地に入ると客先の新担当者(若くてとても理解のある優しい人です)とシールメーカーのエンジニアさん、協力会社の現地エンジニアがスタンバイしてくれています。うちのエンジニアも混ざって、皆でこのモンスターポンプを据え付けます。チェーンジャッキで釣り上げて土台に下ろし、配管関係をつないで大型モーターをカップリングで接続すればOKです。
そして必要な圧縮空気等の準備もでき、ついに試運転の準備が整いました!待ちに待った瞬間です。これで何事もなくポンピング出来れば、僕らは無罪放免で日本に帰れます。
返り血ならぬ返りオイルを浴びた営業さんは、鬼の形相に
やがて無線に工場からの指示が入り、プラントの各所から設備の動作音が響き渡ってきました。大型モーターに電気が通じ、おもむろに回転を始めます。ポンプが音を立てて回りだし、やがて規定回転に。メカニカルシールに続くオイルラインにも、規定の圧力がきちんとかかっていることが確認できます。
「おお、問題なく動いてる!」見ていた日本人たちの間から歓声が漏れます。1分経ち、2分経過。もう大丈夫かな?というので、同僚のベテラン営業さんがポンプの横を覗き込むように確認に行きます。と、その瞬間。
ぱっきーん
という音と同時に、回転するメカニカルシールから吹き出すオイル。まるで、空中を舞うねずみ花火のように円を描いてオイルが飛び散ります。そして、そのオイルをまともに受けてしまった営業さん。
「大丈夫ですか、Hさん!」
駆け寄った僕の前には、かけていた眼鏡がオイルでドロドロに曇ったまま、鬼の形相で立ち尽くすHさんの姿が…。試運転は失敗です。というか、今割れましたねこのシール。
大反省会、そして…。
僕らは悄然と、お客さんのプラント建屋に帰ってきました。頭を抱え込む客先の担当者さん。そしてシールメーカーの担当者も、「こんなはずでは…」と困惑気味。
しばらくして皆が落ち着いてから、今後の対応が協議され、次の事項が決まりました。
・メカニカルシールについては、今回の結果を受け至急現品の状況、問題点を整理し改良品を製作する
・販売店である〇〇(我々のこと)は、このままでは埒が開かないのでアメリカ本国にポンプ一式を送り返し、現地工場にて現品ポンプのオーバーホールを行う。
・客先でも米国で出荷試験に立ち会うので、最低2回アメリカに行って作業を行うこと
というわけで、今回でめでたしめでたしと終わりませんでした。
本件は2015年に持ち越し、年明けすぐにアメリカはアイオワ州に出張です。
(続く)↓
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