結局、シンガポールで何をやってもどうにもならないので、客先の強い要望でポンプ製造元の米国本社に泣きつくことになりました。しかし、年末ぎりぎりまで受け入れの可否を電話メールその他で確認しますが、いいとも悪いとも言われません。結局、メーカーから明確な返事はないまま、アメリカはアイオワ州Cedar Fallsに向かいます。僕と営業さん、そしてシールメーカーから来ていただいたエンジニアSさんの、過酷な三人旅。
年明けすぐのフライトはデンバー経由
今回の出張は、年末にシンガポールでポンプの断末魔を一緒に聞いて返り血ならぬ返りオイルを共に浴びたベテラン営業のHさんと、日本を代表するメカニカルシールメーカー社員のSさんに僕の三人です。ユナイテッド138便でデンバー入りし、そこから国内線でメーカーの最寄りCedar Rapids空港に向かいます。
ちょうどこの時期は寒波が北米を襲っていて、僕らが行く予定のCedar Fallsという街の今週の天気予報はこんな感じです…。この前まで居たシンガポールと比べたら、プラス30℃からマイナス30℃へ60℃もの温度差があるわけで、正直身体がついていけるか分かりません。

ホワッツ?
ここIowa州に比べるとまだデンバーは暖かい方でした。Cedar Rapids空港から事前に予約していたリムジンに乗って、100㎞超の道のりを2時間かけてCedar Fallsに到着します。

今回の旅の位置関係
車を降りると、僕がこれまでに経験したことのない極寒の世界です。ダイヤモンドダストみたいなキラキラした粉末も舞っています。

寒い寒い寒い
初日、予想外の事態が
最初に書いた通り、当初僕からメールや電話で「客先がどうしてもというんで、年明けすぐに工場でオーバーホールしたいんだ。6日に行くからよろしくね」と伝えていたのですが、アメリカ側ではいいとも悪いとも言って来ません。最悪、受け入れてもらえないとしても、三人で会社の玄関に座り込みをして入れてもらおうと、禅寺の入門じみたことを半分冗談半分本気で言い合っていました。
さて、ホテルからタクシーに乗ってついにやってきました、Vポンプのアメリカ本社。これからどうなるやら、心配な気持ちでインターホンを鳴らします。
「あの、日本から来たZenと申しますが…」
「ああ、どうぞどうぞ入って!寒いでしょ」
おや、意外と話はついているようです。建物の中に3人で入ると、何人か二階から迎えに来てくれました。
「ワオ、本当に来たのか!遠かったろう」
ずっとこの件でやり取りをしているK技師や、納品担当のBさんなどです。笑顔の中に一通り挨拶が進みます。あれ、もしかして俺たち歓迎されてる?
「例のポンプは昨日ウチについたよ。さあ、早速ミーティングをしよう」
狐につままれたというのはまさにこういうことを言うのでしょう。僕らは温かい歓迎を受け、会議室に打ち合わせのために案内されました。
「ああ、ロジャーを紹介しておくよ」
ということで、V社をすでにリタイアしているロジャーを紹介されます。彼は長年この会社の国際セールスを担当していて、世界各国に出張を経験している、このメーカー的に国際折衝のエキスパートなのです。
「さあ、何でも困ったことがあったらロジャーに聞いてくれ。早速、ポンプをどうリペアするか作戦を練ろう」とK技師。
僕は、思わぬ事態になんだか目頭が熱くなりました。なんでも、僕からの悲痛なメールを重要視したメーカー側では、色々準備をして待ってくれていたらしいです。
アットホームなアメリカ的対応
ポンプのオーバーホールについては、その後の打ち合わせでロードマップが示され、僕らがここに滞在する間に機械オイルを用いた漏れテストを行い、改良版メカニカルシールを用いて次回出張の時に客先立ち合いのもと最終出荷前チェックができることになりました。ここまで来れば、僕ら的には出来過ぎたようなものです。ちょっと前まで、工場にすら入れずに玄関先で立ち尽くす絵すら描いていたのですから。
ロジャーが僕らのアテンドをしてくれて、このCedar Fallsの街の説明、V社と街の関わり、そしてV社の製品群の説明など、まるでゲストに会社案内をするような形でイチから僕たちにレクチャーしてくれます。色々忙しいだろうに、ここまで時間を割いて対応してもらえると思わなかったので本当にうれしいです。
僕は結局、このポンプ対応でこの街に計23日間滞在したわけですが、それほどお店が豊富でもないこの街で、いつも違うお店を見繕って僕らに色々なアメリカ料理を紹介してくれたロジャーには、感謝しても感謝しきれません。僕もいつか、こんな自然なホスピタリティで自分のゲストを対応するようにしよう、と固く心に誓ったのでありました。

僕らに対応してくれたメーカーの皆さん。手前の白髪のおじいさんがロジャー
ポンプの方は、ここまで来れば後はもう餅屋さんに任せておけば大丈夫。大船に乗った気分で、僕らは工場を見学し、エンジニアの人々に現物の印象を聞き、メカニカルシールについての知見を聞きます。とても漏れが発生するような個体には見えないとのことですが、一応様々な確認項目があるので、全部細かくチェックをしてもらいます。
こういう時のアメリカのエンジニア魂というのは本当にすごいです。日本では考えも及ばないような細かい数値に、異様にこだわったりします。そして、それがちゃんと意味のある細かい数字なので、最終的に報告書を読むと「なるほど、これであんなにここの精度にこだわったのか」と理由が分かるようになっているのです。実に大したものです。
アイオワ州のローカルグルメ
さて、仕事の話はそれぐらいにして。このアイオワ州は農業の盛んなところで、ロジャーいわくトウモロコシと豚肉の生産量ではアメリカ随一を誇る場所だそうです。ということで、その地元料理の数々をここで簡単に写真でご紹介します。
僕的には、ポークチョップという骨付きの豚肉をグリルしたステーキと、コーンケーキという素朴なパンがとても気に入りました。あとテイタートッズというチキンナゲットみたいなポテトも。外は大雪で出歩くこともできず、この出張で大分体重が増量してしまったので困りました。
週末もアテンド
どこまで仕事なのかわかりませんが、ロジャーが「週末はどうするの」と聞くので「ホテルに籠ります」と答えたら、「いい所に連れてってあげるよ」ということで、僕ら3人を近くのトラクター博物館に連れていってくれました。John Deereという、その世界では著名なトラクターはここCedar Fallsに工場があるそうです。

歴史ある工場
他にも地域のビジターセンターに連れていってくれたり、奥さんも一緒にローカルのダイナーに食事に行ったり(ロジャーいわく、「君たちはこういうダイナーで食事をすることはもう一生ないだろう」というくらいローカル)、家族ぐるみのまるで親戚のような対応です。
僕はイタリアの時と同様、彼からも多くのことを学ぶことが出来ました。ありがたいことです。
そして二回目の出張は2週間後
一回目の出張は結局1/15で完結、ついで1/27に僕は再びこのCedar Fallsに営業さんと二人でやってきました。今度はシールメーカーのエンジニアの方に加えて、客先の偉い方と、例の若手担当の方と一緒です。
結構細かい所までチェックしてくる方だったので、僕は日本側とアメリカ側の中間に立って色々大変でしたが、目指すゴールの形は決まっているので、ひたすらそこに向けて日程をこなしていくだけです。
最後にホテルの食堂の二階で0時近くまでかかりながら報告書をまとめ上げ、ようやく客先のOKが出て解放された時は本当にほっとしました。こんなギチギチのやり方を続けていたらとても神経がもちません。アメリカ側の、あくまで実用的なプラグマティックなアプローチと違って、日本側のロジックが立たない神経質ぶりは僕には少し理解が出来ないものでした。いつもそうですが、僕は日本人の技術者と一緒にいるより、外国人技術者と話をする方がよほど話が合うのです。色々な人から言われることですが、本当に生まれる国を間違えたな、と思わないでもありません。
無事ミッションは終了、しかし…
さて、Cedar Fallsのミッションも終わり、シカゴ経由で日本に帰るためにCedar Rapidsの空港近くにホテルを取りましたが、雪はどんどん降り積もってきます。

やまない雪
なんとこの大雪で、僕らのCedar Rapids→Chicago便がキャンセルになってしまいました。なんでもシカゴは大雪に見舞われていて、いつこの国内線が飛ぶのか、そもそも予定が立たないという始末。いつになるか分かりませんが、Cedar Rapidsの街にしばらく足止めです。
でも天気だけはどうにもならないので、このアクシデントを利用して最大限に楽しむことにしました。不幸中の幸いというべきか、滞在が延びたので今年のスーパーボウルをリアルタイムでアメリカのテレビで観戦できることに!

幸か不幸か
次の日、飛行機はまだ飛びませんが少し雪も落ち着いたので街中を散歩します。シカゴの天気とここCedar Rapidsの天気は少し違うようです。
こんなに晴れているなら飛行機も飛ぶんじゃないかな?と思ったら、案の定再開の連絡が来たので空港に急ぎます。ようやく、シカゴ空港までたどりつくことが出来ました。

シカゴはまだ大雪
滑り込むように到着したシカゴですが、こちらは依然として大雪が続いています。東京へのANA便は飛ぶのか飛ばないのか未定ですが、とにかくゲート前で待機してほしい旨係員が案内しています。しばらく待っていたのですが、どうやら飛行機は飛ぶようです。しかしこの大雪なので早々に日程を変えた人も多いようで、なんと搭乗したのは僕らを含めて30人に達しない程度…。おかげで、エコノミーの座席を横一列全部占領して、帰国便はずーっと寝続けました。こんな楽なフライトは先にも後にもありません。
なかなか得難い、真冬のアメリカを存分に体験した出張になりました。
次はちょっと番外編↓
https://schliemann.tokyo/trip-to-usa2-2015/
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